食品の放射線測定器

10 Bq/kgからの食品放射線レベルを測定

カリウムや他の核種からの影響

セシウムの測定は、他の核種からの影響を受けています。たとえば、カリウムが多量に含まれる焼却灰や食塩などを測定すると、通常よりセシウムが高めの値を出すことがあります。これはどの測定でも発生することですが、こちらではその原因についてご紹介します。

全エネルギーピーク

焼却灰や食塩250g など、カリウムが非常に高いものを測定すると、セシウムの値が高く表示されることがあります。これは、どの放射線測定器でも、程度の差はありますが、同様に発生する現象です。

カリウムに限らず、セシウムもそうですが、すべての放射線は、決められた「全エネルギー光電ピーク」を持っています。飛んできた放射線が、検出器に当たって完全に止まる場合に出るスペクトルのピークです。たとえば、セシウム137 の場合、662keV です。カリウムの場合、1504keV です。

こちらは、セシウム137 のスペクトルの例です。662 keV に強いピークがあることが見えます。これが、「全エネルギー光電ピーク」です。

セシウム137のスペクトル

コンプトン散乱による影響

さらによく図を見ると、662keV よりも低いエネルギー範囲に、値は低いですが、なだらかなスペクトルが 0 -- 500 keV の範囲ぐらいで見ることができます。これは、飛んできた放射線が検出器に当たって跳ね返り、検出器の外に逃げていってしまった場合のスペクトルを示しています。これをコンプトン散乱によるスペクトルと呼びます。(参考)

セシウムの場合、662 keV の全エネルギー光電ピークより低いエネルギー範囲に、コンプトン散乱のスペクトルが広がります。同様にカリウムは、1504keV よりも低い範囲に広があります。カリウムのコンプトン散乱の影響は、当然、662 keV のセシウムの測定にも影響を与えることになります。

カリウムの影響

PM1406 では、Cs137,Cs137 の両方を測定していますが、400-800 keV の範囲をセシウムからの放射線として計測しています。カリウムのコンプトン散乱による影響は、セシウムのエネルギー範囲(400-800keV)に覆い被さってきます。具体的な現象としては、カリウムが多い物体を測定すると、セシウムの範囲(400-800keV) のカウント数を持ち上げて高くします。これがカリウムが多い物体を測定すると、セシウムと誤判定されるという原因になっています。

これは放射線の性質であり、どの測定器でも発生する現象です。同様の現象は、カリウムだけではなく、セシウムよりも高いエネルギーを放出する放射線を出す一部の金属など、セシウムの放射線測定には、他の核種からの様々な影響を受けています。

 

厚生労働省のスクリーニング法での取り扱い

たとえば、食品の安全性を確認するための「厚生労働省のスクリーニング法」の中にも以下のように記載があります。

他核種の影響の補正 食品試料中には K-40 が含まれていることがあり、コンプトン効果により測定範囲のカウントを増加させ、正のバイアスが生じる。スクリーニング法では正のバイアスを許容しているので、これを補正する必要はない。補正を行う場合は、測定下限値の確認と、補正が過大となり負のバイアスを生じないことの確認が必要であるので、ソフトウェア開発者に確認する。

厚生労働省の立場でいえば、カリウムが含まれている測定物は、コンプトン散乱の効果で、セシウムの放射線を高くしてしまうが、一切、これを補正せず、セシウムの放射線が、見かけ上、高いままで、放置してよい、という内容になっています。

Polimaster では、「食品」全般に関して、国際的な論文などから食品に限ってカリウムの最大値を見積り、カリウムのセシウムへの影響を補正するアルゴリズムを採用しています。ただし補正を強くしすぎると、セシウムの放射線量を小さく見積もりすぎる可能性があるため、補正は最小にとどめてあります。


食品用の放射線測定器

放射線測定器一般に言えることですが、塩、焼却灰など、カリウムが多量に含まれるものを測定すると、より高エネルギーを出す放射性物質の影響によって、セシウムの放射線が高くなります。ですが、これは、上記のように放射線の性質上、普通のことです。

PM1406 は、食品に対してのカリウム補正しか入れていないため、塩や焼却灰を測定すると、セシウムの値が高めに出るのは、このためです。たしかに「塩」は、食品ですが、塩だけを、そのまま、何百グラムも食べる人は、いないかと思いますので、これは、微妙ところですが、食品には、含めない扱いをしています。

すべての食品用測定器では、同様のことが発生しています。食塩250gなどを測れば、程度の差がありますが、どの測定器もセシウムの値は高めに出てしまう現象が発生します。かなり高いエネルギーまで、すべての放射線のピークを把握できれば、計算によって、すべてのコンプトン散乱の影響を、計算で取り除くことはできますが、シンチレーション計測器の場合、3000 keV 程度までしか、見ることができないので、すべてを取り除くことは簡単ではない状況です。逆に、塩の放射線量が低めにでる測定器は、強い補正が入っていることになり、逆に食品などの放射線を低めに見積もってしまう危険性があります。

厚生労働省でも、シンチレーション検出器の限界は把握しており、セシウム値が高めにでる分には問題ないという立場をとっています。高めに出た上で、基準値より低いことが確認できれば、その食材は安全であるという立場になっており、食品に対しての最低限のカリウム補正を入れた PM1406 は、食品・飲料水にかぎっていえば、十分に精度高く判定できる測定器となっています。